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2023年01月31日 公開

 

朝鮮画―芸術か?革命か?

古川美佳

 

 朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の美術を代表する朝鮮画について日本で初の講演会が6月3日同志社大学で開催された。講演者は韓国生まれで米ジョージタウン大学美術科の文凡綱(ムンボムガン)教授。2016年ワシントンD.C.アメリカン大学美術館に続き、18年光州ビエンナーレで朝鮮画展を企画、昨年日本で出版された『平壌美術(ピョンヤンアート)—朝鮮画の正体』(白凛訳、青土社、2021年)の著者でもある。
 書名の「平壌美術」とは、朝鮮で最も活気にあふれた「平壌」に由来して命名され、その美術の核心が朝鮮画だ。朝鮮画とは、日本画・中国画・韓国画などのように、朝鮮における東洋画の呼称であり、社会主義リアリズム様式を基本とする。輪郭を簡潔な線で描く鉤勒法による日本画などに比べ、朝鮮画は外郭線を使わず墨と鮮明な色で客観的な現実を表現する没骨法が中心だ。その高度な技術と表現力は朝鮮型社会主義国家の閉鎖性という「逆説」によって生み出された独創といえる。
 講演会で文氏は、朝鮮画が「革命のためのプロパガンダ」「キッチュで低俗な表現」と見なされていることに一石を投じた。朝鮮社会の内在的なダイナミズムと文化は不可分であり、「プロパガンダか、芸術か」という二項対立的な視座こそ見直すべきなのだ。
 実際、文氏の来日はこの二項的図式を凌駕する経験をもたらしてくれた。ひとつは、荒井経東京芸術大学教授の協力により、東京芸大や武蔵野美術大学の日本画研究室の制作現場を見学し、東アジアの東洋画を比較することができたこと。次に、植民地期に女子美術大学に留学し解放後韓国で活躍した画家千鏡子(チョンキョンジャ)の次女が文氏と共に来日した妻スミダ・キム氏であることから、かつて母が通った女子美校舎や資料室を見学し、「日韓共通の近代美術史」を想起できたことである。そして何より、講演会の立役者白凛(ペクルン)氏(在日朝鮮人美術研究者)をはじめとする在日朝鮮人と文氏一行との交流だ。
 これらの展開はあたかも南北分断を無化するかのような可能性を示しており、それゆえ朝鮮の美術への先入観を払拭したアプローチが急務なのだ。日本でこそ朝鮮画展の開催を期待したい。

『美術評論家連盟会報』23号