3-1

2022年01月22日 公開

2020~2021 私のこの3点

 

加須屋明子

「石内都展 見える見えない、写真のゆくえ」
2021年4月3日―7月25日
西宮市大谷記念美術館
国内外で活躍目覚ましい石内の、関西では初の大規模個展。出発点ともなった「連夜の街」ヴィンテージプリントのほか、未公開のカラー写真スライド投影や、水害で被災した自作を撮影し、いわば写真の死と復活を示した写真など「これから」が示され見ごたえがあった。

「Viva Video! 久保田成子展」
2021年6月29日―2021年9月23日
国立国際美術館
(2021年03月20日―06月06日新潟県立近代美術館で開催/2021年11月13日―2022年2月23日東京都現代美術館)
ヴィデオ・アートの先駆者、久保田の没後初の大規模回顧展。新潟から東京、そしてニューヨークへと活動の場を広げ、ヴィデオ彫刻で注目を集める姿を資料と共に展示。代表作「デュシャンピアナ」シリーズ一挙公開や未公開作品の発表も合わせて久保田の魅力と重要性が改めて詳細に示された。

「Lost in Translation」
2021年9月1日―9月19日
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA(アクア)
大災害・大変動の時代に、資本主義社会の不平等を是正するような新たなシステムが提案できるかを問いかけ、言語コミュニケーションのエラーを芸術的実践の基礎として積極的に捉えなおし、創造の原初を示す意欲的試み。

 

川浪千鶴

「ホー・ツーニェン ヴォイス・オブ・ヴォイドー虚無の声」
2021年4月3日―7月4日
山口情報芸術センター[YCAM]
京都学派の議論の多義性に翻弄される映像インスタレーションや、目が眩むような垂直移動を行いながら登場人物に憑依するVR体験などの、圧倒的な美しさと恐ろしさ。来日できないシンガポールのホーと、遠隔でイメージとテクストを緻密に紡ぎ上げたYCAMの底力にも感服。

「段々降りていくー九州の地に根を張る7組の表現者」
2021年3月27日―6月13日(ただし、コロナ禍で4月27日から閉館)
熊本市現代美術館

熊本出身の詩人・谷川雁の詩論の一説をタイトルに掲げ、九州各地を拠点にする7組の表現者の「存在の原点」を見つめる意欲的な企画。単なる地方の作家紹介ではない。そこにしかない環境と生き方、それこそが表現の核となる「問題意識」を形成しているという指摘は鋭い。

アルティアム最後の展覧会「絶望を覆すことができない恋を正義とせよ、きみが、死んでも残る花。」
2021年7月14日―8月31日
三菱地所アルティアム(イムズビル、福岡市)
幅広いジャンルの展覧会を企画し、福岡のアートシーンを32年間も牽引してきたアルティアムがギャラリー活動を終了した。最後を飾ったのは近年印象的な作品を発表した7人のアーティスト。中でもこの場の歴史に思いを寄せた淺井裕介の作品群に一際名残惜しさが滲んでいた。

 

北澤ひろみ

「白川昌生展 ここが地獄か、極楽か。」
2021年7月17日―9月5日
原爆の図 丸木美術館
白川昌生が向き合い続けてきた「戦争」をテーマに、90年代以降、制作の作品と本展に向けた新作によって構成。戦中、戦後をとおして戦争がどう伝えられてきたのか、これからどう伝えていくのかついて問いかける。

「HOME/TOWN」
2021年2月11日―5月30日
太田市美術館・図書館 開館3周年を記念した、詩人・清水房之丞 、美術家・片山真理、写真家・吉江淳による展覧会。地域の土地や歴史、生活を見つめることから生み出された作品において、川が重要な要素となっていた。

「揺れる光/拡散する色彩」
2021年9月11日―11月7日
群馬県立近代美術館 収蔵作品の中から、複雑に変化する光の反射や空間へ広がる色彩の効果を重要な要素とする作品で構成。オノサト・トシノブ、李禹煥、加藤アキラ、保田春彦、清水九兵衞、鈴木ヒラク、鬼頭健吾の作品が放つ光と色がオプティカルな空間を生み出した。

 

小勝禮子

女性アーティストへの注目と再評価の展覧会開催 「石岡瑛子展 血が、汗が、涙がデザインできるか」2020年11月14日―2021年2月14日 東京都現代美術館 、「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」2021年4月22日―2022年1月16日 森美術館
長く活動する女性アーティストへの注目。グラフィックアートの世界や日本をはみ出した石岡瑛子から、70歳を超えた女性作家を集めたアナザーエナジー展など、これまでの評価の基準を揺さぶる視点がある。一過性の流行ではなく、継続することを強く望む。

原爆の図 丸木美術館の企画展活動 「内田あぐり VOICES いくつもの聲」から「白川昌生展 ここが地獄か、極楽か。」まで、2020年11月7日―2021年9月5日
そのほか、「山内若菜展 はじまりのはじまり」、「金原寿浩展 海の声」、「特別企画 藤井光 爆撃の記録」など。丸木位里・俊夫妻の連作「原爆の図」を常設展示する同館は、社会に向けて問いかける美術を、過去ではなく現在進行形で発信し続ける。

東日本大震災10年後の総括 「3・11とアーティスト 10年目の想像」展 2021年2月20日―5月9日 水戸芸術館 、「もやい展2021TOKYO」2021年4月1日―8日 タワーホール船堀
2021年は東日本大震災後10年目だったが、美術館の企画展としては水戸芸術館のみ。作家主催の「もやい展」は2017、2019年に続き3回目の開催。公立美術館には「3.11」を総括する気力も余裕もないのか。コロナ禍のせいばかりではないだろう。
(2021年9月末時点での執筆)

 

篠原資明

ダンサーのアオイヤマダとチュートリアル徳井義実によるラヴェル「ボレロ」のパフォーマンス
2021年1月17日
ロームシアター京都
特殊メイクとダンスを組み合わせたヘアメイクショーのようなステージが、斬新で秀逸。「ボレロ」の振り付けとしても、前代未聞であるが、アオイヤマダの身体を支持体とする絵画的パフォーマンスとしても、評価できる。

宮永愛子によるオンライン茶会「Voyage」
2021年3月20日12時―24時
京都大学の花山天文台の協力を得た、宇宙を感じられる茶会。ワタシ自身は都合により参加できなかったが、同茶会の直前に、茶箱を見せてもらいながら、宮永の話を聴き、茶会の創造的試みとして感銘を受けた。

東京オリンピック開会式のパフォーマンス「動くピクトグラム」
2021年7月23日
「が~まるちょば」のHIRO-PONと「GABEZ」のメンバーによる、このパフォーマンスは、色彩がブルーに統一されていたこともあって、マティスの切り紙絵とイヴ・クラインのアントロポメトリを延長する試みとして見ることができた。それだけでもスバラシい。

 

千葉成夫

「堀浩哉展 触れながら開いて」
2021年2月24日―3月27日
Mizuma Art Gallery
我々は終に世界の「総体」を掴み、表現することは出来ないのかもしれない。それでも、自らと世界とに「何か」を刻み続けてゆく他はない。そこに、ある「おののき」とそれが齎す一種の「美」との、二つ在り!

「中村功 新作展」
2021年3月8―27日
ヒノギャラリー
不可視の世界を夢見て求め続けてきた、「自己」の場で、それから「自己」を離れて。「時間」と共に、「世界」とは「空間という広がり」に他ならないと実感する。そこから不可視の地平に届くかどうか、これからだ!

「中村一美」
2021年6月5日―8月7日
Blum&Poe
展開が明瞭に解るようにと、画廊のキュレイターが企画した。ドローイングとタブローとを並列することで、いわば縦軸と横軸の展開が立体的、いや構造的に見える、そんな展示になった。なかなかやるじゃない!

 

中塚宏行

「小野田實展・私のマル」
2021年4月10日―6月20日
姫路市美術館
具体美術協会の会員で、これまで断片的にしか紹介されていなかった作家の本格的な回顧展。カタログも充実している。展覧会に先立って、小野田が姫路で創立した現代美術活動「ネオ・アート47年の軌跡」も出版された。

「小早川秋聲展」
2021年8月7日―9月26日
京都文化博物館
(2021年10月9日ー11月28日東京ステーションギャラリー)
私も「國の盾」(1944)に注目した一人だが、戦後日本の美術界でほとんど忘れ去られていた画家の全貌が紹介されることの意義は大きい。技量と視野の広さ、多彩さ、戦争画家のレッテルゆえの戦後の不当な評価を感じる。

「塔本シスコ シスコ・パラダイス」
2021年9月4日―11月7日
世田谷美術館
華やかで美しい色彩、そして何よりも絵を描く喜びと、旺盛な制作意欲と、周囲の人やものに対しての愛情が満ちあふれている。絵画とは、美術とは、展覧会とは何かを私達に示し、創造力の原点を思い出させてくれる。

 

早見堯

「木坂美生展」
2021年4月27日―5月9日
ギャラリー・カメリア ギャラリー・ナユタ
当然だと思っていた暮らしが崩れていったコロナ禍の一年半。日常をかみしめ味わう日々。A taste of ordinaryといった思いを抱かされた。「成る」と「為す」のあわいでなにごとかが生まれている。

「大城夏紀 鳥が鳴いて私は涙する」
2021年6月19日―7月18日
KATSUYA SUSUKI GALLERY
それ自体でしかない色と形がそれ自体以外のイメージへ誘う。時間と空間の不思議な感覚に浸される。のどかな天空へ上昇した眼差しは一挙に家持の思いの中へ下降。日常と非日常が交錯するジェットコースター感覚。

「工藤礼二郎展 光と空間」
2021年7月15―8月1日
宇フォーラム美術館
コロナ禍はわたしを見つめ直す日々ももたらした。わたしは何を見ているのだろう。何気なく日常生活を送っているわたしは何を考えていたのか、どこに向かっていたのか。光の陰翳に包まれて内省させずにはおかない。

 

深川雅文

「飯島暉子 室内経験」
2021年5月21日―5月30日
Marginal Studio(文華連邦)
キュレーション:中本憲利(インディペンデント・キュレーター)
旧家を生かしたギャラリーで、作家は、旧家の室内空間との濃密な交感によりそこを単なる展示の場ではなく、自らの作品の素材として組み込み、異次元の表現の場に転化して、繊細かつ強靭な構想力を発揮していた。初個展ながら刮目すべき展示。

「フォトグラフィック・ディスタンス―不鮮明画像と連続階調にみる私と世界との距離―」
2021年7月17日―9月5日(緊急事態宣言により8/22より臨時休館)
栃木県立美術館
キュレーション: 山本和弘(栃木県立美術館シニア・キュレーター)
人と世界との距離感を久しく規定し続けてきた「写真的距離感」の変容を、とりわけ版画メディアにおける写真像の取り込み方に着目して照らし出すという戦略が際立っていた。この視点で収蔵品を再編集し新たな価値を浮上させる点でも秀逸であった。

「村田峰紀+盛圭太 庭へ」
2021年8月14日―9月11日
void+
デジタル化浸透の一方、アナログなドローイングの可能性が注目されている。「描く」ことの根源に関わる活動を続けている二人の作家による本展は「描く」行為を通してイメージの生成と転化の原点を照らし出していた。筆者執筆レビュー(https://bijutsutecho.com/magazine/review/24605

 

藤嶋俊會

「ヨコハマトリエンナーレ2020」
2020年7月17日―10月11日
横浜美術館他
コロナ禍で強行したが、途中で休館することもなく、入場者数では15万人(想定13万人)、チケット販売枚数6.1万枚(想定4万枚)、収入10.4億円に対して支出9.8億円、差し引き0.6億円、つまり6千万円の黒字になった。

「アナザーエナジー展―挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」
2021年4月22日―9月26日
森美術館
筆者と同世代の比較的高齢の女性がどのようにアートを通して思考し、行動して現在の作品に到ったか。男性と比較して社会的なストレスが多く、長期間の作家活動を経て到達した作品には、当然ながら紆余曲折の人生が刻まれていた。

「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ」
2021年7月17日―9月26日
東京ステーションギャラリー
アイヌの彫刻家といえば1989年横浜で展覧会開催中に亡くなった砂澤ビッキがいる。藤戸はビッキと3歳違いの幼友達であった。作風はビッキの抽象に対して藤戸はリアルな熊彫りと対照的だが、木彫を通して人間は自然と共にあるという自然観を共有していた。

 

藤田一人

大型企画展の一般入場料金が次々に2000円代
東京国立博物館の特別展「桃山」が一般入場料2400円を皮切りに、大型企画展の一般入場料が2000円代に突入。コロナ対策としての日時指定入場制に合わせた収入減の対応策とされる。が、コロナ禍が過ぎても単純に値下げとはならないだろう。

二つの「澤井昌平展」
2021年6月13日―7月4日 UNPEL GALLERY
2021年8月26日―9月7日 コート・ギャラリー国立
コロナ禍も二年目となるにもかかわらず、未だその実情に迫ろうとする作品に出合っていない。それは多くの美術家が日常というものに余にも無関心だからではないか。そんななかで、澤井昌平のコロナ禍の日常に素直に目を向け描く。それが良い。

川﨑鈴彦 《古寺風声》(第7回改組新日展出品作)
2019年10月30日―11月22日
国立新美術館他
肩の力を抜いて目の前に展開する情景と向き合い淡々と描く。95歳になった日本画壇の長老、川﨑鈴彦の日展出品作には、さまに円熟の自然体が体現されていた。そして、そこに描かれたマスク姿の人物に、コロナ禍という現実が等身大に浮かぶ。

 

松本透

「ミュージアムとの創造的対話03 何が価値を創造するのか」展
2020年11月28日―12月27日
鳥取県立博物館
村岡三郎・原口典之をはじめとして収集・保管も展示も一筋縄ではいかない現代美術を集中的、持続的に集めてきた某氏のコレクションを公開。広く、浅い公立美術館コレクションでは見えにくい一時代の撚り糸がみごとに。

ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展「ストーリーはいつも不完全……」「色を想像する」
2021年4月17日―6月24日(当初会期:―6月20日)
東京オペラシティ アートギャラリー
たとえばペンライトの小さな光を頼りに同館のコレクションを見て廻るかたちの「ストーリーはいつも不完全……」。空間の一部、絵の一部しか見えないストレス。それを通じて突きつけられる、わたしたちの視覚の現実。

「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻郷へ、そして現況は?」展
2021年7月17日―10月17日
東京都現代美術館
(2021年1月15日ー4月11日愛知県美術館/2021年12月4日ー2022年1月23日大分県立美術館)
ひとつひとつ見てまわるのは無理なほどの物量の絵がならんだが、歩き疲れたころには、まだまだ何部屋でも見てまわれるような弾みがついていた。psychedelicがそういうものであるなら、なかなか手ごわい相手だと、あらためて思った。

 

山本和弘

「平成美術:うたかたと瓦礫(デブリ) 1989–2019」
2021年1月23日―4月11日
京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ
ベルリンの壁を彷彿とさせる平成防潮堤を超え出て、展示建屋内部に入ると、個の顔を滅失したコレクティブ・アーティストの営みに出くわす。地球にとってのデブリとは私たち人間のことであったのか、とあらためて気づかされる。

「約束の凝集 vol.3黑田菜月|写真が始まる」
2021年3月16日―6月5日
ギャラリーαM
写真というメディウムの批評が、写真そのものや絵画のような静止画像ではなく、技術的に一段進化した映像という動画によって行われることで、同類の画像メディウムと写真との偏光的差異を明示する実験的試技に成功。

「ボイス+パレルモ」
2021年7月10日―9月5日
埼玉県立近代美術館
(2021年4月3日ー6月20日豊田市美術館/2021年10月12日-2022年1月16日 国立国際美術館)
万人にア・プリオリに装備された感官のみを用いて純粋に造形を受容するとき、視覚外のノイズはキャンセリングされ、形式的な事実判断のみが、批評という権利判断を成立させる美術の臨界を比較検証しうる世界基準の二人展。

 

山脇一夫

「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」展
2021年1月15日―4月11日
愛知県美術館
(2021年7月17日―10月17日東京都現代美術館/2021年12月4日ー2022年1月23日大分県立美術館)
モダニズムに逆らって土着、土俗を打ち出してグラフィックアート界に旋風を巻き起こし、画家に転身後もその個性的なスタイルで次々と話題を集めてきた横尾忠則も今年85歳を迎えた。その生涯を振り返る大規模な回顧展となった。

「「写真の都」物語 名古屋写真史1911‐1972」
2021年2月6日―3月28日
名古屋市美術館
「名古屋のフォト・アヴァンギャルド」、「日高長太郎と愛友写真倶楽部」、「異郷のモダニズム」などこの地方と満州の写真史の発掘、紹介に尽力してきた同館竹葉学芸員の渾身の集大成ともいうべき展覧会となった。

「小野田實 私のマル」展
2021年4月10日― 6月20日
姫路市美術館
2008年に亡くなった元「具体」会員で現代美術家小野田實の全貌を見せる大回顧展。姫路ローカル、関西ローカルから全国区へ、そして世界へと発信しようとする美術館の熱い思いのこもった展覧会だった。

 

『美術評論家連盟会報』22号