鉄腕アトムの瞳
美術評論家連盟会長 齊藤泰嘉
【美術評論家連盟について】
美術評論家連盟(国際美術評論家連盟日本支部、任意団体)が誕生したのは、今から70年ほど前、1954年 5月15日のことです。初代会長は土方定一氏、初代常任委員長は富永惣一氏でした。常任委員には嘉門安雄氏がおられ、事務総長は河北倫明氏でした。会員数は翌年には30名を超え、現在は200名ほどを数えるに至っております。
パリに本部を置く国際美術評論家連盟(仏語名Association Internationale des Critiques d’Art、英語名International Association of Art Critics、略称AICA)は、1950 年に設立されています。AICA会員証(プレスカード)には、この組織が「ユネスコと公式の関係を持つ非政府機関(NGO in official relations with UNESCO)」と書かれています。国際美術評論家連盟設立の目的は、美術批評活動の世界的活性化(文化多元主義の尊重)を目指すものでした。この組織は、現在は60か国以上に支部があり、4千人を超える会員がおります。
美術評論家連盟は、美術創造活動に対する自由な批評や支援の推進、美術状況に関する建設的提言などを目指し、シンポジウムやトークイベントの開催を行うとともに、2023年からは、会員が美術批評、書評、研究成果、随想等の発表を行う自主投稿サイト「美術評論+」を開設しております。AICAの海外支部との交流や内外の美術館、博物館との交流も進めており、AICA会員証(プレスカード)による優待入館の機会も増えております。会員は、新聞、雑誌等の各種メデイアやSNSなどで造形文化に関する考えや新しい情報を発表しています。
【自己紹介】
四方幸子氏のあとを引き継ぎ、2026年1月から会長となりました私は、東京都美術館生みの親で「石炭の神様」と呼ばれた佐藤慶太郎氏に関する研究を40年間続けている者です。
私の生まれは山口市、1951年12月1日のことです。この日は法律第285号博物館法制定の日に当たります。この法律において誕生したのが学芸員という職種です。大学で美学美術史(西洋美術史)を学び、さらに博物館学芸員となる資格を得た私は、1970年代半ば頃、神奈川県立近代美術館(鎌倉近代美術館、当時土方定一館長)に勤務していた酒井忠康先輩に就職の相談に行ったことがあります。そのとき酒井さんからは「俺のやり方は、刀を下から突き上げる野武士の戦法だ」と教わりました。
美術館というのはすごいところだと覚悟を決めてから、1977年、北海道立近代美術館建設準備室に就職したところ、太平洋戦争末期に特別攻撃隊員の体験を持つ倉田公裕館長から「今から北海道で文化の明治維新をする」との訓示を受けました。ここから私の美術館暮らしが始まり、1980年からは東京都美術館に勤務し、「今日のイギリス美術」、「現代美術の動向Ⅱ 1960年代」、「ヘンリー・ムーア」、「ボロフスキー」展等を担当しました。1980年代、ニューヨーク郊外、ロックフェラー家の別荘に現代日本美術の調査に訪れた際には、散歩から戻られた若々しいジョン・D・ロックフェラー三世夫人とお会いし、ロックフェラー・コレクションの油彩画、白髪一雄《赤蟻王》(1964年、現在東京都現代美術館蔵)を「東京都美術館に差し上げましょう」という突然のお言葉を笑顔の夫人からいただき、驚いたこともあります。
その後、東京都現代美術館(当時嘉門安雄館長)に移り、1995年の開館記念「アンソニー・カロ展」をカロ氏ご夫妻、建築家安藤忠雄氏、日本現代美術界の恩人イアン・バーカー氏(当時ブリティシュ・カウンシル展覧会担当官)(Mr. Ian Barker, former Exhibition Officer, British Council)など日英の関係者の協力を得て実現することが出来ました。
美術評論家連盟に入会させていただいたのは1980年代半ばのことです。その頃、事務局次長をつとめるとともに、『美術手帖』や『三彩』などで展評欄を担当し、評論活動を始めました。それから40年以上の歳月が流れ、つくばと水戸での大学教員生活も経験したのち、このたび会長に選ばれました。これからは、美術評論や美術制作の諸先輩から教えていただき、自らも体験してきた知られざる美術品発掘の楽しさを次世代の美術文化を担う若い世代の皆さんと共有できればと考えております。
【これからの美術評論家連盟】
美術評論家連盟の使命は、1951年、『少年』誌上に手塚治虫の「長編科学漫画」の主人公として登場した「アトム大使」(後の「鉄腕アトム」)が持っていたあの大きな瞳が示すように、日本文化がこれからも夢を持って世界の青空を飛び続けることが出来るように努めることだと思います。
そのためには、異世代異業種の会員が集まるこの美術評論家連盟ならではの内部交流のみならず、さらに連盟の外部の皆様との情報交換も必要ではないでしょうか。例えば、クリティック、キュレーター、コレクターの3C交流は、国際的にも行われているところですが、日本の美術界の発展のため、美術評論家連盟が、名誉外部会員制度等の検討を行うことを通じて、お互いにお互いを必要としている美術関係者の出会いの場(サロン)を設けることなどを考えても良いのではないでしょうか。
美術評論家連盟の組織体制や財政運営の基盤整備もさらに進めることが必要かと思われます。
現代日本文化、とりわけ美と芸術を愛する皆様のお力添えをお願い申し上げます。
(2026年1月1日)
