「文化/地殻/変動 訪れつつある世界とそのあとに来る芸術」経緯

2020年07月15日 公開

四方幸子(本シンポジウム実行委員長)

本シンポジウムの構想は、AI、VR、生命科学をはじめとする近年の科学技術の飛躍的進展とともに再考を余儀なくされている「近代」概念や諸システムのほつれ(人間中心主義、デジタル監視、気候変動、格差や分断の拡大)にともなう大きな転換の兆しに向き合うものとして、2019年3月に遡る。芸術も「近代」を基盤としたシステムであり、創造や享受において従来前提とされてきた「人間」という箍が緩んできていること、そして美術や評論もこの大変動の中で社会との関わりを模索するとともに、その存在意義を批評的に問い直す時期であるという認識に基づく。
そのためにシンポジウムを単体のイベントとして見なすのではなく、連盟内外に関わらず、今後の継続的活動へとつながる結節点と位置づけ、領域を超えた対話の場を開くことを意識した。パネリストは、批評的視座をもちアートとサイエンスの間を相互往還しながら活動するドミニク・チェン、長谷川愛の二人を会員外から招聘、会場を、アクセスが良く開放的な渋谷のEDGEof(特別協力)内スペースとし、芸術や文化全般に興味を持つ多様な人びとが出会い交流できる「リンキング・パーティ」(シンポジウム後)を企画したのもそのためである。
シンポジウムのテーマについては、8月のあいちトリエンナーレで、国内外で潜在していた諸問題(社会・経済・文化的分断やその背後にある教育の問題)がSNSにより加速され一気に吹き出したことも受けとめつつ、実行委員(木村絵理子、住友文彦、山本和弘会員)およびパネリストの岡﨑乾二郎会員とともに対話を重ねた。3月上旬頃まで、プレイベントとしてのワークショップの開催可能性も含め、構造的・根源的な核心に触れながら、社会と芸術との関係を教育の側面からも検討した。
実空間に集う意味を前提にした企画であり、新型コロナウイルスによる感染症が急速に世界を覆い始めたため、開催延期もありえたが、シンポジウムのテーマが顕在化したかのような状況の只中での対話の必要性を感じ、連盟初のオンライン開催に切り替えた。ライブ配信は、リアルタイムでの重層的な共有の場を開き日本の文化シーンを変えてきた「S/U/P/E/R DOMMUNE」の宇川直宏氏に共感いただき、「共同開催」として無観客で実施、パネリストも半数がZoomによる遠隔参加となった。シンポジウム冒頭には宇川氏と林会長からの挨拶を、前者にはシンポジウム後半にDOMMUNEでの知見を生かしたコメントを、後者には最後に一言をいただいた(シンポの詳細については、アーカイブをご参照いただきたい)。本シンポジウムは、「S/U/P/E/R DOMMUNE」ユーザーのアクセスも含め、広範囲の方々に視聴いただき、活発なチャットが交わされ、ビューワー数は16,576を数えた。
コロナ禍は、オンラインへの移行が技術的にはすでに可能であったことを示した。その意味で、既存の諸システムや慣習の見直しと変革がことごとく進んだこの数か月間だった。
シンポジウム構想時の諸問題が、開催までの1年間にことごとく可視化され、世界全体が「地殻変動」を政治・社会・経済そして文化に到るまで経験し、その動きは継続している。世界は半年前の状況に戻ることはないだろう。世界が、今年前半に経験したことを未来にどう生かしていくかを問われている。
刻々と変わる状況下で、シンポジウムを開催することができた意味は大きい。そしてシンポジウムを契機に、以後様々な対話が生まれ、具体的にトークシリーズなどが開かれ始めている。美術と社会との新たな関係についての思考と実践は、始まったばかりであり、誰もがその当事者なのだ。
*最後に、本シンポジウムの実現に多大なご協力を賜りました組織そして個人の皆さまに、心より御礼を申し上げます。