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2020年11月14日 公開

「表現の不自由展・その後」事件のその後

アライ=ヒロユキ

 

 あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」は、歴史の真実とそれを塗り替えようとする歴史修正主義とのせめぎ合いの場でもあった。この論点は国内で敬遠されたが、海外では正面から受け止められた。具体的には、日本の植民地支配を受けた韓国、台湾での開催だ。この「その後」のキュレーションを行ったのが表現の不自由展実行委員会で、筆者はその実行委員を務めている。
 まず韓国の済州島の済州4.3平和公園で2019年12月に開催の「EAPAP2019:島の歌」展に参加。翌2020年4月には、台湾の台北市立現代美術館、MOCA Taipeiで「表現の不自由展 A Long Trail for Liberation」が開催。台北展は予算枠の制約からくる出品数の少なさを歴史資料で補填した。
 「福島」をトピックのひとつとし、豊田直巳や永幡幸司らの美術作品のほか、《前九年絵巻物》、歌川芳宗による福島事件の報道画も展示。ビジュアル資料を用い、朝廷と源氏の東北侵略、明治維新政府のかの地での悪政を提示。過去の「内国植民地化」と示唆した。日本帝国のアジア近隣国の植民地支配と戦争がモチーフの、安世鴻、キム・ソギョン/キム・ウンソン、白川昌生らの作品と対になる。両者をつなぐのが、嶋田美子の天皇制が主題の作品だ。
 駱麗真館長は公益財団法人日本台湾交流協会(大使館の代替物)から呼び出しを受け、説明を行ったという。日本の「民間人」から抗議が寄せられてもおり、会話じたいは大過ないものだったそうだが、ある種の圧力として形式上働いたのは想像に難くない。
 福島で言えば、先ごろ「東日本大震災・原子力災害伝承館」で語り部が話す内容が規制を受けたと報道された。あいちトリエンナーレ2019への補助金不交付をめぐる問題では、これが「日本博」という安倍晋三・前首相肝いりの、国家主義が強い文化政策の助成枠であったことはあまり知られていない。いま日本社会で進行中の文化の危機は、表現の自由という抽象的な言葉で言い表せない。歴史をめぐるイデオロギー戦こそが焦点だ。

 

『美術評論家連盟会報』21号