上前日記の出版予定とパンリアルの二人展-湯田寛と木村嘉子   中塚宏行

2019年11月23日 公開

 4年前から大阪大学総合学術博物館に寄託されている、「具体」の作家、上前智祐の日記を読んで、データ化する作業を続けてきたが、ようやく年内出版の目途がついてきた。上前智祐と「具体」、戦後関西の現代美術の研究の一助となることを願っている。
 もう一つは、戦後日本画の革新をめざしたパンリアル協会のメンバーであった湯田寛と木村嘉子のふたり展を、8月に豊中市立文化芸術センターで開催、そのキュレーションを行った。湯田寛は私が通った中学校の美術教諭であり、木村嘉子は故木村重信氏の妻である。二人の作品は、豊中市と大阪府に作品がまとめて収蔵されている。
 パンリアルは、三上誠、山崎隆、星野眞吾、不動茂弥、下村良之介、大野秀隆などが良く知られているが、湯田寛は大阪に長く居住し、またパンリアル時代の作品の大半を自ら焼却処分したので作品がわずかにしか残っておらず、また、その後パンリアルからも離れ、60歳で早く亡くなったためか、上記のメンバーと比べて知名度が格段に落ちる。彼が廃棄した作品は、残された作品集やわずかの写真でしかみることができないが、それらを見ると、いわゆるアンフォルメル風の作品で、きわめて興味深い。木村嘉子についても、パンリアル時代の作品については、関西でもほとんど知られていなかった。このことについては、『須田記念・視覚の現場』復刊記念号(2019年7月)に執筆しているので読んでいただきたい。「パンリアル創世記展」が西宮市大谷記念美術館で開催されてから既に20年になるが、昨年、ニュージーランド出身で現在京都市在住のマシュー・ラーキング氏が「パンリアル・戦後日本画の前衛」という英文で687頁に及ぶ論文を総合研究大学院大学に提出し、博士号を取得した。その概要は『あいだ』239号に稲賀繁美氏が紹介している。今回、ラーキングさんからその論文データを送っていただき、また豊中市の展覧会も見てもらうことができた。

 

 

『美術評論家連盟会報』20号