美術評論家連盟資料について  鏑木あづさ

2019年11月23日 公開

はじめに

 本資料群は、美術評論家連盟(以下、連盟)に関する記録の集積である。これらはまず2019年春、連盟事務局のある東京国立近代美術館から、常任委員の加治屋健司と事務局の山内舞子によって文書保存箱4箱分の資料が集荷され、東京大学駒場キャンパスへと搬入された。2019年夏、新たに文書保存箱4箱分の資料が見つかったため、山内が事前に簡易調査を行なった後に追加資料として集荷、搬入された。

 今回は本資料群を会報編集の参考とするため、またいずれ行われる本調査・整理の前哨として、5月、10月、11月に約20日間の予備調査および一部資料の簡易整理を実施した。ISAD(G)2nd(国際標準記録史料記述の一般原則)に基づく本資料群の概要と編成案は以下の通りである。

 

資料概要

3.1

個別情報

3.1.1

識別記号

AICA JAPAN

 

 

3.1.2

タイトル

美術評論家連盟資料

 

 

3.1.3

年月日

1954-2015

 

 

3.1.4

記述レベル

フォンド

 

 

3.1.5

数量

文書保存箱8_内訳:ファイル65冊 写真200枚 カセットテープ100本 会員名簿90冊 その他多数の紙片(数量はいずれも概数)

3.2

コンテクスト

3.2.1

作成者

美術評論家連盟、国際美術評論家連盟

 

 

3.2.2

作成者の経歴

19545月、国際美術評論家連盟(L'Association internationale des critiques d'art)の日本支部として結成。美術評論家の団結をはかると共に、国際的に協力し、造形文化の発展に寄与することを目的とする。初代会長は土方定一、常任委員長は富永惣一、事務総長は河北倫明。

 

 

3.2.3

資料の来歴

2019年春および夏、美術評論家連盟事務局のある東京国立近代美術館にて保管されていた資料を東京大学駒場キャンパスへと搬入。

 

 

3.2.4

入手元

美術評論家連盟

3.3

内容と構造

3.3.1

範囲・内容

美術評論家連盟の活動にまつわる文書。主として文書だが写真、カセットテープなどが含まれている。

 

 

3.3.4

編成

シリーズ1 美術評論家連盟に関する資料(1954-2015, 主に1971-1982 

シリーズ2 美術評論家連盟本部に関する資料(1954-1960, 1974-2015

サブシリーズについては別稿を参照のこと

3.4

公開と利用条件

3.4.1

利用条件

一部資料は連盟サイトにて公開。その他資料の公開は未定。

 

 

3.4.3

資料の言語

日本語、フランス語、英語など

3.5

関連資料

3.5.3

関連資料

東京都美術館アーカイブズ

 

 

3.5.4

参考文献

美術批評と戦後美術(ブリュッケ、2007

3.7

記述コントロール

3.7.1

担当者

鏑木 あづさ

 

 

3.7.3

記述年月日

20191110

 

 

編成案

シリーズ1 美術評論家連盟に関する資料(1954-2015, 主に1971-1982)

1. 総会に関する資料(1964, 1971-2014)
2. 常任委員会に関する資料(1972-2015)
3. 催事に関する資料[名称は一部略記]
 3.1 日英現代国際美術シンポジウム(1982)
 3.2 中国美術理論家訪日関係[シンポジウムを含む](1989, 1991, 1993, 1995)
 3.3 国際美術評論家連盟日本大会(1998)
 3.4 50周年記念シンポジウム 日本の美術批評のあり方(2004)
 3.5 50周年記念出版『美術批評と戦後美術』(2007)
 3.6 シンポジウム 今、国際展は可能か(2005)
 3.7 シンポジウム 美術館 マネジメント新時代(2006)
 3.8 シンポジウム 日本とスペインの新しい交流ルートを探る(2007)
 3.9 シンポジウム 超資本主義への疾走 中国現代美術の現状と未来(2007)
 3.10 シンポジウム 批評を批評する 美術と思想(2008)
 3.11 シンポジウム デジタル時代における写真表現(2009)
 3.12 日中美術シンポジウム 美術とグローバリズム?(2010)
 3.13 シンポジウム 岡本太郎と美術批評(2011)
 3.14 シンポジウム 彫刻の変容―日本の場合(2012)
 3.15 シンポジウム いま変容と対峙する 情報と批評/教育と批評(2014) 
4.声明・要望等に関する資料
 4.1[芸術文化に関する要望書](1974)
 4.2[東京都美術館の機能に関する]要望書(1975)
 4.3 [パロディ裁判に関する]声明(1976)
 4.4 ヴェネチア日本館改築についての要望書(1981)
 4.5 [富山県立近代美術館問題に関する]声明文・要望書(1995)
 4.6 「山種美術館の移転・縮小および学芸職員の解雇問題」に関する声明書(1998)
 4.7 芦屋市立美術博物館の存続問題に関する美術評論家連盟の声明書(2004)
 4.8 ろくでなし子氏に対する不当逮捕と起訴に対する説明と起訴撤回の要求(2015)
 4.9 国立競技場壁画保存に関する要望書(2015)
5. 会報に関する資料 [第1号〜ウェブ版第4号](2001-2014)
6. 文化庁派遣芸術家在外研修員候補者推薦に関する資料
7. 個人・機関との通信に関する資料
8. 会員名簿に関する資料(1954-2015)
9. 会計に関する資料
 

シリーズ2 美術評論家連盟国際本部に関する資料(1954-1960, 1974-2015)

1. 国際本部からの受信文書(1954-1960, 1975-2015)
2. 国際本部への送信文書(1974-2015)
3. AICA国際大会に関する資料(1978, 1984, 1995, 2000)
4. 会計に関する資料

 

解題

本資料群は1. 連盟に関する資料と2. 国際本部に関する資料のふたつのシリーズに大別される(以下連盟資料、本部資料と記述)。それぞれのサブシリーズの解題は、以下の通りである。

1 連盟資料

1-1 総会 連盟では規約によれば毎年1回、定時総会の開催が定められている。総会資料は主として開催通知、プログラム、報告の3点からなり、開催通知とプログムからは日時、会場、議題等を確認できる。報告は当日の記録だが、すべては保存されておらず、印刷用原稿のみが確認できる年もある。

1-2 常任委員会 主として開催通知、議事録、報告の3点からなる。開催頻度は不明だが、3点すべてが揃っていることは極めて少ない。残存する資料は1974〜82年、岡本謙次郎会長時代のものに集中している。90年代は議事録に代わる録音が残されていることもあるが、反訳はされていない。1950〜60年代の記録は今回、確認できなかった。

1-3 催事関係 一部は既にファイルされているため、これを維持して若干の整理にとどめた。シンポジウムは2004年以降、10年間ほぼ毎年開催されており、開催要項や登壇の依頼書、参加者リスト、当日の記録(音声か反訳)などがある。

1-4 声明書・要望書 声明・要望の一部はファイルにまとめられているが、多くは総会や常任委員会で諮られるため、会議資料として保存されていることがある。また議事録等に声明・要望についての記録があるものの、控えが残っていない場合もある。この点については、後ほど詳述したい。

1-5 会報 会報発行の経緯は特集趣旨に詳しい。会報資料の多くは定型の執筆依頼や頒布に関する事務的な文書で、編集会議など会報の内容に直接関わるものはわずかである。

1-6 文化庁在外研修員関係資料 連盟が一時期、推薦を担っていたことによる資料。詳細は未確認。

1-7 個人・機関との通信 会員その他との通信で、内容は多岐に亘る。

1-8 会員名簿 結成当初の参加申込書と1963年以降の会員名簿。名簿は抜けている年もあり、発行頻度は不明。

1-9 会計 今回は未確認。

 

2 本部資料

2-1, 2-2 本部との通信 パリ本部から受信した文書と、連盟から送信した文書の控えからなる。国際総会(Assemblée générale)や国際会議(Congrès)の連絡のほか、会長選挙について、ディレクトリのための活動報告アンケート(年1回)、規約その他の案件へ意見を求める通信などがある。

2-3 国際大会 連盟会員が参加した本部の国際総会や国際会議についての資料。

2-4 会計 会費納入やAICAカード(プレスカード)交付についての通信など。

 

詳細が確認しきれていない資料もあり、再び調査・整理の機会が得られた際には、編成に変更が生じる可能性があることをご了承いただきたい。

 

整理について

 今回は編集委員会からの依頼により、1. 連盟設立の経緯がわかる資料、2. 定款や規約についての資料、3. 声明その他に関する資料の3点に重点を置いて調査・整理したが、これらについて単独で明瞭に記された資料はほとんど見当たらなかった。そこでまずは連盟の活動を概観できる資料、すなわち総会および常任委員会に関する資料の調査・整理に努めた。うち文書の一部(約150件)はアイテム毎に目録を作成し、検索の利便性を考慮した。

 設立の経緯は日本で開催されたAICA国際大会(1998)と50周年記念シンポジウム(2004)の資料で見られる。ただし、いずれも結成時のものではなく、連盟の趣旨が問われる機会に、これを明文化したものと思われる。また総会および常任委員会の記録によれば、規約は会長・役員の選出を中心に何度か改訂されている。会員名簿末尾の規約と併せて、確認が必要となるだろう。 
 声明その他は[東京都美術館の機能に関する]要望書(1975)、[パロディ裁判に関する]声明(1976)、ヴェネチア日本館改築についての要望書(1981)などがある。しかし例えば1964年の総会報告では、第14回読売アンデパンダンでいくつかの作品が撤去された1962年の暮れ、東京都美術館が制定した『東京都美術館陳列作品規格基準要綱』へ「連盟としてなんらかの意思表示をすべきではないかとの動議があり」「要請状を送った」とあるものの、この要請状の控えは見つかっていない。その後の対応は資料をご覧いただきたいが、このように会議の記録をつぶさに見ていくことから、その時々の問題に対する連盟の動きを知ることができる。

 なお[東京都美術館の改築に関する]声明(1969)は、1975年の要望書からその存在が明らかになったものの、連盟資料からは控えが見つからず、提出先の東京都美術館に原本が所蔵されていた。そのため掲載の資料には、東京都美術館の収受印が押されている(*1)。

 本部資料は、今回は残念ながら詳細に調査することができなかった。何とも気がかりだが、次の機会を待つこととしたい。本部資料は連盟資料に比べるとコンパクトにまとまっており、記録をたどると本部でも規約の改正が度々行われていることがわかる。また本部からの要請による案件は時折、日本の連盟の総会および常任委員会の報告にも記されているので、適宜参照されたい。

 

おわりに

 本資料群のうちでもっとも古い資料は1954年6月18日付、美術史家・吉川逸治から送られた連盟への参加申込書である。申込書は会長宛に「美術評論家連盟の規約に賛同し会員として参加します」と印字されたハガキで、日付、住所、氏名、略歴の記入欄があり、1962年までに41通が確認できる。

 本部資料でもっとも古いものは連盟結成の1954年7月16日付、AICA会長ポール・フィーレンスから事務総長河北倫明宛に送られたレターである。この年の9月、イスタンブールで開催される第5回AICA国際会議へ、土方定一と佐波甫が日本代表として参加することを歓迎している。

 連盟の文書で一番古いものは1964年4月、会員各位へ1965年の第17回AICA国際総会および第9回AICA国際会議を、日本で開催することを伝える文書である。資料によればこれに伴い準備委員会も発足しているが、その後の動勢は不明である。

 美術評論家連盟編『美術批評と戦後美術』(ブリュッケ、2007年)の年表「美術評論家連盟と戦後美術の歩み」(1945〜1975=倉林靖編、1976〜2007=暮沢剛巳編)は、批評家による展覧会企画や著作の軌跡をたどるよう、仔細に編まれている。だが連盟そのものについての記述はやや乏しく、上記はいずれも含まれていない。今後は本資料群から美術評論家連盟の活動や、戦後の批評家らの動向の一端が明らかになるだろう。

 奇しくも今年はAICA本部設立70周年であるとともに、1989年より始まったフランスの美術批評アーカイブズ(Les Archives de la critique d'art, ACA)が30周年を迎えた年でもある(*2)。本部のサイトでは記念事業として、アーカイブズ創立メンバーのジャック・レナールとジャン゠マルク・ポワンソによる対談「美術批評アーカイブズの短い歴史」と、いくつかの国で並行して設立された同様の機関にまつわる小論が公開されており、彼らの歩みが必ずしも平坦ではなかったことがうかがえる(*3)。

 表現の自由の前提に知る権利があることは、文書館における平等閲覧の原則などを例に持ち出し説くまでもないだろう。これらが根底から揺らぐ現在だからこそ、今回の調査を機に本資料群の本格的な調査・整理と公開について(そして、そのために必要な費用や時間について)、真の理解が広がることを願うばかりである。もっとも、残存する記録は単に連盟の活動の歴史を実証する、もしくは組織としてのアカウンタビリティを全うするためだけに用いられるものではない。これまでの連盟が成し得たこと、そして成し得なかったことを批判的に読み解き、資料をもとに新たな創造へと寄与するアクチュアルな批評を展開することもまた、可能なはずである。

 

1.[東京都美術館の改築に関する]声明(1969)と「山種美術館の移転・縮小および学芸職員の解雇問題」に関する声明書(1998)の2点は本資料群とは出所が異なるため、参考資料として掲載するものであることをお断りしたい。なお東京都美術館の資料調査については、東京都現代美術館の水田有子氏、東京都美術館の小林明子氏にご協力いただきました。記して謝意を表します。
2.Les Archives de la critique d’art.
https://www.archivesdelacritiquedart.org/ (2019年11月10日閲覧)
AICA本部とフランス支部のほか、ピエール・レスタニー、ミシェル・ラゴン、ジョルジュ・ブダイユら批評家、ギャラリーその他の機関、パリ・ビエンナーレ(1959-1985)等を含む91の資料群を所蔵。
3.Jacques Leenhardt, Jean-Marc Poinsot, “A Short History of the Archives of Art Criticism (ACA) 1989-2019: A Conversation, A Celebration of AICA’s 70th Anniversary / Une Célébration du 70ème Anniversaire de l'AICA,” L'Association internationale des critiques d'art.
https://aica-international.squarespace.com/70th-anniversary-publication (2019年11月10日閲覧)

 

『美術評論家連盟会報』 20号