2018~2019年・短信  千葉成夫

2019年11月23日 公開

 フットワークが衰え、出歩くことがかなり減っている。当然、流行にも世事にもトピックスにも疎くなる。二丁上がりくらいの年齢だから当り前か! 逆にいうと定年後の「毎日が日曜日」の日々を自分なりに謳歌しているわけだ。それでも、今年もお呼びがかかること、国外が(東アジアばかりだが)6回、国内が4回。合わせるとだいたい月に1回ほどだから、健康のためには悪くない。

 その気が無ければ引き受けはしないが、「お呼びがかかる」とは、勿論、ご自由に観光旅行をどうぞということではなく、なかみは講演・シンポジウム・展覧会見学・作家アトリエ訪問などで、事前か事後に「原稿執筆」が伴うのが通例である。「仕事」にもなり健康にも良いのだから、まあ言うことはないようなものだ。「毎日が日曜日」生活のなかの潤いか気晴らし、かな? 「私の3点」は日本国内のもの限定だから、ここにそういう国外旅行で出会ったものを、字数の都合で、一つだけ記してみる。

 「寧越蒼嶺寺跡出土五百羅漢—あなたの心に似た顔」展(ソウル国立中央博物館、2019年4~6月)である。日本の羅漢表現が強面で厳格だったり糞真面目だったりするのとはかなり違って、普通の人々の喜怒哀楽の顔、日常生活の様々な局面で見せる顔を表現している。阿羅漢は仏教では最高の悟りを開いた聖者のことなのだが、この90体程の(高麗時代の)羅漢さん達の顔は悟りとは無縁の巷の老若男女の普通の人間達の日常の顔であり、それが素晴らしい。表現として素人っぽいなどと言うなかれ! 聖なるものとも超越的なものとも無縁の羅漢さん達。普通の人々。

 古い羅漢さん達は現代とは無関係と思う人が多いかもしれない。しかし残念ながら今「普通の人」というものじたいが崩壊しつつある。世界のことはともかく、日本では「普通の人」が居なくなる。いや、存在できなくなる。

 

『美術評論家連盟会報』20号