激変する文化芸術政策から目がはなせない  武居利史

2018年11月09日 公開

 昨年からの国の文化芸術政策の展開に注目している。政府関係者にとっては周知の事実だろうが、公立美術館のような文化行政の末端にいる人間にはその全体像は伝わりづらい。とはいえ、美術と社会について日々考える私にとっては看過できない変化のように思われる。
 昨年6月、文化芸術基本法が改定された。法律の名称から「振興」が消え、第2条「基本理念」の第10項に「文化芸術の固有の意義と価値を尊重しつつ、観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業その他の各関連分野における施策との有機的な連携」を図るとの文言が追加された。それを受けて3月に策定された文化芸術推進基本計画の表題は、「文化芸術の『多様な価値』を活かして、未来をつくる」だ。「多様な価値」とは「文化芸術の本質的価値及び社会的・経済的価値」のことで、「文化芸術の継承、発展及び創造に『活用・好循環させ』、『文化芸術立国』を実現」としている。文化の「振興」から「活用」を重視する政策への転換といえよう。
 同じく昨年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)「未来投資戦略2017」では、「文化芸術産業の経済規模(文化GDP)及び文化芸術資源の活用による経済波及効果を拡大」「稼ぐ文化への展開」といった方針が出され、12月には内閣官房・文化庁の「文化経済戦略」にまとめられた。文化の「活用」路線が急速に前景化するのは、こうした理由がある。改革は急ピッチで進んでおり、「文部科学省設置法」「文化財保護法」改正によって文化庁の機能再編が進むと同時に、「障害者文化芸術推進法」「国際文化交流祭典推進法」も新たに制定された。アールブリュットやアートプロジェクトも地方創生との関係で拍車がかかるとみられる。
 このように文化政策が、社会との関わりを重視することは大事だが、経済効果を早急に求めたり、それによって文化の選別が進むなら、芸術の健全な発展は望めない。従来以上に文化行政は、政治や経済の影響を受けやすく、「表現の自由」が狭められる恐れもある。激変しつつある文化芸術政策の動向からは当面目がはなせない。