ワルシャワ雑記   岡村恵子

2018年11月09日 公開

 今年は、新緑爽やかな5月と肌寒い9月末に、二度ワルシャワ(ポーランド)を訪れた。ベルリンの壁崩壊から10余年後の2000年頃、縁あって機会を頂き初めて調査に訪れた折には、この街の隅々にはまだ、どこかささくれだったある種の影が見受けられ、言い知れぬ緊張感を抱いたことを記憶している。由緒ある重厚な外観のホテルで、中々湯が出ない上に弱弱しい水圧のシャワーに閉口した。確かその時は苦心したものの回線がうまく繋がらず、持参した重いパソコンでのメール送受信は叶わなかった。
 2004年にEU加盟を果たし、今では見違えるように華やかになった街角は、あちこちで再開発工事が進み、店頭には真新しい商品が豊富に揃っている。軒並ぶ飲食店では、気取らないが洒落た装いの地元民や観光客が、郷土料理やイタリアン、エスニックなどの多彩なメニューを楽しんでいる。今回は現地のSIMカードを入手し、スマホ片手に、頻繁に往来するトラムやバス、地下鉄等の公共交通機関を駆使して、軽快に街を歩くことが出来た。週末毎に歩行者天国や各種デモで渋滞することを除けば、至極安全快適に生活できる。都市部と地方との格差や、さまざまな矛盾、右傾化する現政権への不満や不安は付きまとうものの、現状のポーランドは、政治的にも経済的にもかつてない安定を享受しているようだ。
 1990年代から、旧共産圏の「後進国」という立ち位置に甘んじることなく、果敢な批評性で存在感を放つ美術家を数多く輩出したポーランド。そこではアートは公私の両域において様々なタブーに挑戦していた。今回出会った20-30歳代(ミレニアル世代)の作品には、尖がった政治性や反動としてのユーモアは顕著ではないが、その態度には、自らの有り様を客観的に見つめつつ、何ができるかを率直に形や言葉にする、いい意味で素直な政治性を感じる。彼・彼女らの真っ直ぐな視点を介して、欧州内に寝深くある「東」に対する差別や同じ東欧圏内における格差が生む不条理といった、また別の影の部分が新たに見えてきたのは収穫だった。